初夏の香り
「あーこの匂いなんか嗅いだことある・・」
通勤途中で、たまたま香ってきた植物の香り。
実に何十年かぶりに、ある食べ物を思い出しました。
みなさん、「ほおば飯」って、ご存知ですか?
「ほおば飯」とは、漢字で書くと「朴葉飯」
朴葉の葉っぱで包まれた、ちょっと甘めのきな粉ご飯。
大きな朴葉の葉を2枚、十字の形に重ね、その真ん中にきなこご飯を置き、やや固めに形を整えたら葉で包み、少し時間を置きます。
葉っぱがしんなりし、色が黒っぽくなったら、食べ頃のサインです。
材料こそ簡素なものでしたが、朴葉の葉の香りが移ったきな粉ご飯は、おはぎとはまた違った味で、とても美味しかったのを覚えています。
そして、朴葉の葉の香りと共に思い出したのは、小学校の野外学習の時の記憶。
みんなで体操服に着替え、裸足になって、校長先生や担任の先生達と一緒に、いざ、田植え開始です。
血吸い(私の地方では、ヒルの事をこう呼んでいました)に噛まれたらどうしようと、ビクビクしながら、田んぼの土の中にそおっと足を入れていきました。
地面に足が着いた途端、指の間から、冷たくて何とも柔らか過ぎる土が、むぎゅう~っと出てきて、「ひええ。。!!」とみんなで大騒ぎ。
田んぼから出ようにも、土にむっちり足を取られ、思うように動けず、苗を手に持ったまま、みんなで顔を合わせ、立ちすくんでいました。
最初は、その何とも言えない土の感触にとまどい、みんなで、わーきゃー言っていましたが、徐々にその感触にも、水の冷たさにも慣れていき、次第に集中して、数本ずつ、手で苗を植えていきました。
そして、田植えが終わった後で、みんなで食べたのが、朴ば飯でした。
普段、朝礼でしか会わない校長先生の、大きすぎる麦わら帽子や、ひんやりした土の感触、みんなで一列になって植えたはずなのに、見事なまでに、曲がった苗の列・・・・
ずっと忘れていた記憶でしたが、鮮烈に思い出して、なんとも懐かしく、ほっこりした気分になりました。
このように、香りを嗅ぐ事で、その香りにまつわる記憶や感情が蘇る現象の事を『プルースト効果』と呼ぶそうです。
人間の脳には、合理的な思考や言語機能をつかさどる「大脳新皮質」と、感情・本能そして記憶などをつかさどる「大脳辺緑系」が存在します。
視覚や聴覚などは、「大脳新皮質」を経由してから、「大脳辺縁系」へと、情報が送られますが、五感の中で唯一、嗅覚だけは、「大脳新皮質」を経由せず、直接「大脳辺縁系」へと情報が送られ、その中の、記憶を司る「海馬」という部位にダイレクトで届くために、嗅覚から得た情報は、記憶に残りやすいそうです。
昨今の状況下で、小学生の課外授業や、中高校生の部活動なども、中止になったり、限られた時間しか出来ない事が多いとのこと。
先日も、野外学習のキャンプを楽しみに待っていたのに、また中止になったと、しょんぼりしながら、待合でお母さんと話をしている子どもさんがいらっしゃいました。
自然の中に出かける事、いつもとは違った日常の体験をすることは、子ども達にとって、大切な思い出の1つになるであろうに、何とも切ない限りです。
常にウイルスを気にして、消毒するばっかりではなく、たまには泥だらけになるくらい思いっ切り、気持ちを解放出来るような、子ども達の大切な思い出作りの機会が増えていくと良いなあと思いました。
以上、今回は八熊店Wがお届けしました。